夥しい歴史の教区の前で
ありふれた情熱は踏みしだかれ
悉く色褪せてしまう
殉教者たちの笑い声が
冷ややかな失意を
ジョークにすりかえてゆく
 

高鳴る心臓の鼓動に
他人の足音が重なるたびに
敬虔な夢は枯ればむ
言葉も朽ちてゆくものだ
狂おしい光の旋律
燭を燻らす闇の美しき誤謬
 

解熱の作用を私は訝る
すべてを知り得るはずもなかったが
古の時祷書を繰り
作業はつつがなく完了した
偽りの萌芽を掻き置く
もはや一滴の血の比喩もない
 

刻み込まれた言葉と記憶の
不確かな幻影を携えて
恐怖は時代を下り
凪ぎかけた心を威嚇する
燃え上がる鴉の群れを追い立てる
鄙びた砲声のように
 

色褪せた時の流れのなかで
燭光に照らされた
食卓ほどの広さの世界は
惨めに汚れた傷口を誇っているだけだ
赤銅色の意志も
鎮めるべき魂もなく
 

芥子の種ほどの星彩を
仰ぐこともない
風を孕んだ戎克の帆のような
空漠の裏には
寸断された暮色の雲翳だけが
ただじっとその身を潜めている
 
 
 
 
    クリスマスローズ(冒頭 抜粋、1996)
    ─ 詩集「クリスマスローズ」より ─
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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